歯周病の怖さ

35歳以上の約8割の人が歯周病を患っていると言われており、歯周病は初期段階では痛みもなく、軽視されがちな病気です。しかし歯周病の本当の怖さを知っていますか?歯周病は静かに進行し、最終的には歯を失ってしまう病気です。さらに歯を失うだけでなく全身疾患の原因になることがわかってきました。今回は歯周病の怖さについてご紹介したいと思います。

Contents

歯周病の怖さ

歯周病とは、歯茎に炎症が起きる病気の総称を言います。歯茎は表面を覆う歯肉、その奥の歯根膜、さらに奥の歯槽骨、セメント質で構成されています。炎症が表面の歯肉のみに限られている場合は「歯肉炎」、歯槽骨などにまで広がってしまうと「歯周炎」と呼ばれます。歯周病の怖さは、歯を失うことだけではありません。歯周病を放置しておくと、知らぬ間に全身に及ぶさまざまな病気の原因になることが、国内外の研究で明らかになってきたのです。糖尿病をはじめ、脳血管障害、心臓病・動脈硬化、肺炎、メタボリック症候群などの生活習慣病に歯周病は関連性があるため、歯を失うだけでなく、命の危険にまで発展することも考えられるのです。糖尿病の人はそうでない人に比べて、歯周病の発症率が2.6倍も高く、歯周病が糖尿病を悪化させる要因のひとつである可能性が、極めて高いと言われているのです。糖尿病は血糖値の高い状態が続いた結果、全身のさまざまな器官に異常が現れる病気です。「Ⅰ型」と「Ⅱ型」の2種類があり、日本の成人糖尿病患者のおよそ9割以上はⅡ型糖尿病といわれています。実際に、II型糖尿病にかかっている歯周病患者に歯周病の治療をしたところ、血糖値が改善して糖尿病が快方に向かうという報告が多数あります。つまり、歯周病の治療とケアを続けることによって、糖尿病の悪化を防ぐ可能性が高まると言えるでしょう。

さらに最近、歯周病になると糖尿病が悪化するという逆の関係性も明らかになってきたため、歯周病と糖尿病は、相互に悪影響を及ぼしあっていると考えられるようになってきたのです。

歯周病は糖尿病の合併症の一つ

糖尿病の怖さは、なんといっても合併症です。糖尿病を患っている期間が長くなればなるほど、さまざまな合併症が起きやすく、網膜症、腎症、神経障害が三大合併症と言われています。そして、大血管障害(動脈硬化)、足病変(壊疽)に次ぐ6番目の合併症が歯周病ということが認められています。糖尿病も歯周病も初期段階では自覚症状がなく、生活に支障もないので、重症化するまで放置されやすいという共通点があり、怖い病気だといえるでしょう。一見なんの関連性もなさそうな糖尿病は、歯周病とどのような関係があるのでしょうか?「サイトカイン」というタンパク質の一種が、重度の歯周病の人の血中に増えることが大きく関わっていると考えられます。血中のサイトカイン量が増えると、肝臓や筋肉の細胞へのインスリンの働きを邪魔して、糖尿病を悪化させてしまいます。

歯周病と妊娠・出産の関係

一般的に妊娠すると女性ホルモンの影響で、歯肉炎にかかりやすくなるといわれています。特にエストロゲンという女性ホルモンが、歯周病細菌の増殖を促すことや、歯肉を形作る細胞がエストロゲンの標的となることがわかっています。そのほか、プロゲステロンというホルモンは炎症の元であるプロスタグランジンを刺激してしまうのです。これらのホルモンは妊娠終期には月経時の10~30倍になるといわれており、このため妊娠中期から後期にかけて妊娠性歯肉炎が起こりやすくなるのです。

また、妊娠している女性が歯周病を患っている場合、低体重児および早産の危険度が高くなることが指摘されています。原因としては、口の中の歯周病細菌が血中に入り、胎盤を通して胎児に直接感染するのではないかといわれています。その危険率は実に7倍にも上るといわれており、タバコやアルコール、高齢出産などよりもはるかに高い数字なのです。しかし、磨き残しなどなく、歯垢が残存しない清潔な口の中であれば妊娠性歯肉炎は起きにくく、仮に起こってしまっても軽度で済むため、重症化しないように妊娠中はこれまで以上に気をつけて歯磨きなどのセルフケアを行いましょう。

また、まれに妊娠性エプーリスという良性腫瘍ができる場合もありますので、その場合は歯科医院を早めに受診してください。

歯周病は全身疾患に関わっている

歯周病は全身疾患に関連性があります。たとえば、心臓の動脈が詰まったり狭くなったりすると、心筋梗塞や狭心症になり、脳の動脈が詰まったり狭くなったりすると、脳梗塞を引き起こします。血管が膨らんで破れてしまえば、命に関わる深刻な事態を招きます。動脈硬化を起こした血管の中の歯垢を調べると、歯周病菌が見つかるというケースが、外国や日本でも相次いで報告されました。

しかし歯周病と心・血管系の病気との関連する報告が数多くあるのは事実ですが、歯周病菌の存在がどのように動脈硬化症の発症、進展につながっているのかは、まだ十分にわかっておらず、歯周病と心・血管系との病気の関連性は、現状、疫学的な段階にとどまっています。歯肉の炎症が全身に多くの悪影響を及ぼすことは、昨今の研究で明らかになってきています。毎日の丁寧な歯磨き、食生活を含めた生活習慣を見直し、歯周病を予防する事が全身の生活習慣病を予防することにつながると言えるでしょう。また、半年に一度のペースで歯科医院を受診し、歯のクリーニングを受けられることもお勧めです。

おすすめの記事